読書ノートをつける

私は、ミケリウスというスペインブランドのA5サイズノートをかれこれ20年以上使っています。ペンで書いたときの書き心地がよく、また、方眼紙になっているので、箇条書きなどが非常に書きやすいのです。また、ミシン目でノートを切り取ることができて、 ちょっとした手紙やメモを書くときに便利です。

しかし、このノートも、 溜まってくると定期的に廃棄しているのですが、今、20冊以上溜まってきたので 廃棄することにしました。ほとんどが、仕事のメモで書いたもので、1枚1枚を破り、ゴミ箱に捨てて行きます。

そうすると、ずっと探し続けていた「 自信を持って人を動かす」と言う小林剛さんの本の読書ノートをその中に発見しました。さして、有名な方ではありませんが、経営の現場で長年社長を支えてこられた方の本です。この本の読書ノートを書いたのは約12年前のことです。そのノートを再び目にすることができ、内容を読んで、改めて学ぶことが多くありました。

12年前はさほど気にしなかったことでも、今見ると気づきが多くあり、そこにある言葉のひとつひとつがとても重く感じられました。このノートのメモは、今、パワーポイントに落としています。

私は、ここ7、8年ほどは、本を読むと丁寧にノートにメモを取り、そのメモをパワーポイントに綺麗に整理して落として保存をしています。つまり、本を読む、ノートにメモをする、そして、そのノートを見ながら、パワーポイントで読書ノートを作る、といった具合で、1冊の本を合計3度読むことになるのです。そして、 何かあるときは、自分のパソコンに保管しているパワーポイントのメモを見るようにしています。

3度も読むことになるのですから、本の内容は、自分の体に入り込み、あたかもそれらが自分の言葉になっていきます。また、パワーポイントにすることによって、保存が容易で、データですので場所を取らず、失くすこともないですし、すぐに探すことができます。さらに、その本の内容に興味ありそうな方々にパワーポイントのファイルをメールでお送りすることもできるのです。ですから、 一度、パワーポイントまで落としてしまった本は、読書ノートがありますので、改めて読む必要もなく、もう手に取ることは余程のことがない限りありません。

2016年に某大学が主催する10日間余りのセミナーに参加しました。そのセミナーには、大企業の部長さんや役員の方が多く参加されていて、ホテルに泊まり込み、午前、午後にそれぞれ授業があるものです。当時、約100名ほどの参加者がいたと記憶しています。私たちは、 10人程度のグループに分けられ、その グループでグループディスカッションを行い、その後に、参加者全員で行うクラスディスカッションに参加します。それぞれの授業には、課題が事前に割り当てられており、相当なボリュームの文献を渡されます。そして、その文献を参考にして課題への意見をグループでまとめ、さらにクラスディスカッションに臨むと言う、いわゆるアメリカ方式のビジネススクールのようなやり方です。

グループメンバーは、名前を聞けばすぐにわかるような有名大企業から参加されている方々ばかりです。グループディスカッションでは、課題によっては、経営や、経済の話になり、一般論や普遍的な理論の話にもなります。その時に、たまたま感じたことがあります。参加されている方々は、ご自身の会社の仕事の話や、自分が担当されているプロジェクト等についてはかなり精通されており、相当に突っ込んだ話を聞くことができました。しかし、一般論や、経営、経済学、社会学、心理学などについては、あまり深い知見は無いようで急に沈黙になるのです。つまり、普段、勉強したり、本を読んでいないと言う印象を受けました。

例えば、あるトピックスでは、「人は、常に自分が正しいと思って、結果的には、自分の考えで行動をしている」、といった話があり、私は、その内容にふさわしいであろう、デール・カーネギーの「人を動かす」と言う本についてみなさんに紹介をしました。しかし、残念ながら、そこに参加されてる方々は誰もその本のことを知らず、私は相当にショックを受けたことを覚えています。

なぜなら、デール・カーネギーの本はかなり有名で、若い時期に読んだ方が良い、と言われている本ですが、私の場合は40代半ばで読みました。もちろん、パワーポイントでの読書のノートもあります。その本の中では、人間の行動について、いろいろな事例を述べながら紹介していて、主題としては、「他人は変わらない、ただ、自分は変わることができる、だから自分を変えることによって、成長して、困難を乗り越えていこう。」といった内容なのです。

自分のグループ以外の他の方々との交流もありましたが、やはり皆さん普段の日常業務が忙しく、仕事のことについては、雄弁に語ってくれますが、こうした一般論や普遍的なことについてはあまり興味がないようでした。

私は、常々、吉田松陰さんの言葉で、「学ぶ事は、人として与えられた喜びである。その権利を誰も奪うことができない。」という言葉や、福沢諭吉さんが、「学問のススメ」の中で述べている、「今の現状に不満があるなら、とにかく実学を勉強して、自分で道を開きなさい。勉強することです。」といった言葉が好きです。

普段の仕事で精一杯で、まとまって勉強する機会や本を読む時間も少ないと思います。しかし、外資系の会社で社長を歴任された、新将命さんは、以前セミナーに行った時に、こう おっしゃっていました。「コツコツカツコツ」と。つまり、1日4食、一食は読書、そして、それをコツコツと続けることによって実力がついてくる、と言う意味です。

1冊の本を読むのに、私のように、丁寧に読書ノートをつけて、さらにパワーポイントまで作るのであれば、1冊を読み終わるのに相当な時間がかかります。しかし、内容については頭にしっかりと入ります。例えば、「多文化世界」と言う、ホフステード、ミンコフが書いた異文化研究の著書は、 内容が重厚でボリュームも多く、実際に読み終わるのに2年半ほどかかりました。

しかし、その内容は、異文化コミュニケーションのみならず、心理学、歴史、社会学、経営学、地理、進化論と多岐に渡っています。こうした、異文化の研究を論じている著書は、どれも非常に内容が重く、多岐の分野に渡っています。トロンペナールス、ハムデンターナーの「 7つの資本主義」や、「異文化の波」といった文献も相当な時間をかけて読みました。こうした本は、まさに、「コツコツカツコツ」の方式で毎日読み続けなければ読破できません。

毎日の仕事に追われ、まとまった時間がないから勉強ができない、あるいは忙しいから、本を手に取る暇がない、といった方々はそれらを言い訳にせず、とにかく、毎日少しずつでも良いから学ぶことです。心理学や、歴史、地理、といった内容については、実際の今の仕事とはあまり関わりがないものも多いのですが、何かの時に、そういった知識が「なぜ」を考えるときにとても役に立ちます。 1冊の本で完結せず、複数の本が頭の中でリンクし、物事の「なぜ」を解決してくれるのです。


例えば、日本のだいたいの会議は、「ものごとを正式化をするセレモニー」です。時間通りに始まり、粛々と議題通りに会議は進んでいきます。それは、社会学などで論じられているように、「全会一致」の序列ある集団主義での儀式であり、参加者全員が賛成を正式に表明する機会なのです。ですから、全員が賛成しているので、プロジェクトなどの計画は、時間通りにきっちり終わるし、そのためには、事前に根回しということがとても大切だということもわかります。

こうした事は、実際に自分が会議に参加をして、なぜ会議がこんなにつまんないんだろう、と思うことによって、「なぜ」、を追求していくことです。そうすることで、過去に読んだ海外の異文化研究の著書ばかりでなく、日本の中根千枝さんの社会人類学の著書や、鈴木孝夫さんらの過去の文献らが、自分の頭の中でリンクされ、こうした結論に導いてくれるのです。

私がお勧めする本は、やはり、原理原則を述べた本や、ずいぶん前に出版された本でも、今なお、重版されているような本です。こうした本は間違いなく、内容が重く、人生の教科書となり得る本が多いと思います。目の前の仕事のことも重要です。しかし、こうした本もコツコツと読んでおくことで、人間としての深みが出てくるのではないでしょうか。また、単に読むだけではなく、読書ノートを つけることによって、本の内容が自分のものになります。 そして、それらを継続することによって、様々な分野の本の内容が、頭の中でつながり、「なぜ」を解決するのに役立ってくれるのです。

 

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