意思決定のプロセスは、日本と欧米で大きな差があるといわれています。日本の場合は、その意思決定に時間がかかると言われます。それは、全会一致が原則ですので、事前の根回しや準備に時間がかかるからです。
ですから、会議での決定は基本的には、つねに全会一致となります。もちろん、中には、心の中ではあまりやりたくない、と思っていても表面上は賛成の意思を表示して、会社として全員が賛成したこととして先に進みます。
そのための大切な儀式が日本の「会議」です。日本の会議は、こうした意思決定を正式化するための儀式の役割を果たします。会議は、時間通りにきっちりと始まり、役職により座席も決まっていて、議題通りに粛々と進み終わります。
会議の中で反論したり、異なる意見で議論する事はほとんどありません。この儀式を成功に導くために、関係するマネージャーや部長は、会議の前までに、関係する参加者にたくさんの時間を費やして根回しや準備をします。
そして、全会一致で決定したことは、全社を挙げて取り組みます。つまり、会議に参加していない一般社員にとっては、社長を含めた会社の決定事項だと受け止めるのです。
日本のプロジェクトは、その特徴として、表面上かもしれませんが、全員が賛成していると言う前提条件で始まりますので、計画通りに、期限通りに、そして想定された結果どうりに終わるのです。
しかし、先ほども述べましたように、全員が全員、心の底から賛成をしているわけでもありませんし、会社決定だから仕方ないと思っている人もいます。ですから、何らかの理由で、プロジェクトが長引いてしまうと、離脱者が次々に出てくることがあります。
離脱者のほとんどは、もともとあまり賛成ではなかった、なんとなく賛成した人たちですから、時間が経つにつれて、プロジェクトではなく、自分が抱えている仕事のほうに優先順位を置いて行くのです。こうして、プロジェクトは、さらにどんどん遅くなっていきます。
社会学者の中根千枝先生も、その著書で述べられているように、日本には、もともと、その固有の文化として、一気に加速的におおいに盛り上がって、そして、時間がたつと急激に沈んでいくといった感情の起伏、情緒的な起伏の特徴があります。プロジェクトを成功に導くためには、急激に大いに盛り上がったその時に、関係するメンバーを交えて一気に進めることがポイントです。
私も、何らかの理由でプロジェクトが遅れ、長引いてしまった場合は、メンバーの士気を上げるのに苦労をしました。また、プロジェクトでの大きな方針変更が必要な場合に、ステークホルダーやキーパーソンの理解を得るのも、最初の頃に比べると容易ではありませんでした。したがって、初期の段階で盛り上がった時に、できるだけ早く物事を進められるように、事前に事務局やマネージャーが十分に根回しや準備をしていくことです。
これらの日本の特徴を西欧と比較すると、より日本のプロセスがわかると思います。プロジェクトのキーとなる組織メンバーや、会議参加者に対する根回しや準備に時間がかかるため、海外からは、日本は決定が遅いと言わます。しかし、一度決まると全員が賛成ですから、意欲的にプロジェクトへ参加し、きちんと計画通りに終わることができるのです。
一方、アメリカの意思決定は、一般的に非常に早いのです。それは、トップダウンで、直ちに意思決定を行うからです。もちろん、反対のメンバーもいるので、意思決定のための会議は、反対意見もあって、会議では、いわゆる、討議(ディスカッション)となりますが、結果的にはトップダウンで素早く決定されるのです。
こうしてトップダウンで早く決定されるのですが、その特徴としては、経済の状況や、社内の環境が変化したら、あるいは、最初と見込みが違ってきたとわかった場合には、方針変更が次々に行われます。アメリカの場合は意思決定が早いため、問題があれば、直ちに次々に修正していくというやり方なのです。
ポジティブな面としては、プロジェクトの方針が柔軟に変わるため、当初に想定した結果以上のクリエイティブな結果になる可能性を秘めています。
日本の場合、意思決定には、 十分に時間をかけて準備をして、キーパーソンやステークホルダーに個別に根回しをした上で、ある程度の見込みをつけたうえで意思決定会議に臨みます。こうして意思決定までに、社内の空気を作り上げなければならないわけですが、そのためには、普段の経営報告会や、定期レポート、ステークホルダーを交えた飲み会、あるいは発表会などで、プロジェクトの意思決定に関係するような情報をそれとなく共有をして、種をまいておくことです。
また、プロジェクト運営は、何らかの理由で計画が大幅に遅れてしまうと、参加者の関心も薄れ、さらにプロジェクトは遅れますので、 事前のコミニケーションプランでメンバーのスケジュールを押さえ、情報がタイムリーに共有されるようにしかけておくことです。