最近、IFRSと企業会計原則の違いについて確認しようと思いインターネットでいろいろと調べていました。そこには、気がつくと、若い頃によく難しいと感じた会計用語だらけでした。
もう30年以上も企業会計に携わってきたので、こうした文章もすらすら読んでいる今の自分と、若い頃に苦労していた時とを比較してしまいました。何も知らなかったあの時代から、海外での会社立ち上げで原価計算制度を構築し、また、月次決算制度を導入、移転価格税制など専門的なことも苦労しながら経験してきたことを思い出してしまいました。
私は、大学の時、簿記会計は難しい用語ばかりであまり好きではありませんでした。しかし、新卒で入社した会社で、当時、英語ができる人が経理部にいなかったという理由で経理部に配属されたのです。ですから、そこから自分で簿記・会計を一生懸命勉強しました。
しかし、独特の会計用語がなかなか難しく、参考書を読むのも苦痛でした。だいたい、「買掛金」「売掛金」「貸倒引当金」には送り仮名がないのです。正しい日本語ならば、「買い掛け金」「売り掛け金」「貸し倒れ引き当て金」と書くはずです。そもそもこれらの専門用語の意味を知っていないと読むことすらできないのです。
当時、知り合いから勧められて、アメリカの簿記の入門書を1冊いただきました。もちろん全て英語です。その本をざっと読んで、少なからずの衝撃を受けました。日本の簿記の教科書よりもぜんぜん優しいのです。
日本で言うところの「買掛金」は、英語では、”Account Payable”、「売掛金」は”Account Receivable”と書いてあり、読んでその意味の通りでとてもわかりやすいのです。また、「貸倒引当金」についても、”Allowance for doubtful accounts”と言って、読んでそのままの意味です。つまり「回収見込みが疑わしい勘定の備え」という意味です。
私は、この英語の本がとても気に入りました。当時、英語で海外子会社との債権債務の照合や取引高の確認を担当していました。この本に書いてある会計独特の表現を使うことによって、やり取りの英語での文章がすんなりと書くことができたからです。
例えば、便利に使っていた単語には、”appropriate(ふさわしい、正しい)”、”procedure(手続き、処理)”、”depreciation(目減り、減価償却)”などがありました。この本は、その後、英語と一緒に簿記の実務も学んでいくきっかけになりました。難しい用語だらけの簿記・会計の本を初めから読まずに、まずは、英語の本でざっと全体を理解して、その後で日本語の本を読むことで、すんなりと本に入ることができました。
しかし、そもそも、どうしてこんなに簿記会計の用語は難しいのでしょうか。
亡くなられてしまった元信越化学の金子昭(あきら)氏が、彼の著書や講演会でよくお話しされていたのは、福沢諭吉氏が翻訳した簿記の用語が難しいので、その後、簿記会計への道へ入ろうとした人をためらわせてしまったとよく述べてらっしゃいました。
福沢諭吉氏といえば、「学問のススメ」ですが、確かに、この本の中には、「実学」を身に付けることで貧しさから脱却しなさいと書いてあります。まさに、簿記会計は、その「実学」にあたるのです。
私の推測ですが、翻訳されたのは明治時代だと思います。当時の翻訳ではこれで良かったのかもしれませんが、現在となっては、かなり違和感があります。しかし、すでに会計用語として長年定着してしまっているので、逆にそれらは「専門用語」として扱われ簿記会計の中で一般化されています。
これは翻訳された時代の影響もありますし、その用語が長い間、現代まで使われて続けてきたということも影響していると思います。
例えば、海外から入ってくる現代のビジネス用語は、おおよそそのままカタカナで使われています。よく使われるものが「ハラスメント」「エンゲージメント」「キャッシュフロー」「ディスクロージャー」「ステークホルダー」などの言葉です。
今は、英語を学ぶ人も多く、しかも、グローバル時代ですから、そのまま英語をカタカナ表記にして外来語として使っても違和感はありません。ちなみに、「簿記」という言い方も”Book Keeping”の発音「ブックキーピング」の当て字なのです。もし、今の時代にその言葉を日本語として使用するならば、「簿記」ではなく、外来語として、そのまま「ブックキーピング」となっていたことでしょう。
しかし、明治時代では、外国文化も今ほど大量にありませんし、一般に普及させるには、やはり翻訳しなければいけなかったのでしょう。ですから、送り仮名のない「貸倒引当金」とか、「繰延資産(deferred asset)」、あるいは、税務で使う「損金(deductible expense)」といった馴染みのない難しく感じる翻訳語になってしまっているのです。そして、これらの用語は、明治以降に継続して使われてきたので、いまさら、外来語に置き換えることもできないのです。
これまで述べてきましたが、簿記・会計の用語は、明治の翻訳用語ですので難しく感じます。しかし、英語で読めばわかりやすいものです。もしこれから簿記会計を目指す方がいらっしゃれば、英語で書かれた入門書も一緒に並行して読むことをお勧めします。
そうすることによって、英語ができて経理ができる人材にもなることができ、雇用市場で高い価値を生み出すこともできます。
参考に、私が読んでいた本が改訂版としてAmazonに出ていましたので紹介しておきます。