日本語をデジタル化する

◾️日本語はコンテクストを含む言語

日本語は「テレビ型言語」と言われています。つまり文字を目で見てその文字が持つコンテクストを読み取り、前後の文章から意味を解釈します。漢字を使うことで、読み手に想像させることで、文字数を少なく伝達することもできます。

一方、インド・ヨーロッパ語族と呼ばれるアルファベット文字でコミュニケーションする国々があります。例えば、英語、ドイツ語、イタリア語、フランス語、スペイン語などです。

つまり漢字のような文字がない国々のことです。これらの国々では、「書いてあることが全て」と言われています。そう言われても、そんなことは当たり前のような気がしますが、普段使っている日本語と対比するとよく理解できます。

日本語の漢字を含む文字によるコミュニケーションは、行間や前後のコンテクストを読み取らなければ正しい解釈ができません。かといって、誤解を避けるために詳しく書いてしまうと、読み手はしつこいと感じ、自分は相手から信用されていないのではと取られることがあります。

漢字熟語を使って、相手に行間を読んでもらいながらコミュニケーションするのが日本語の特徴なのです。これは、多くの言語学者や異文化研究者も同じことを述べています。

源氏物語を翻訳したサイデンステッカーの文章を読んで、小説家の谷崎潤一郎はその感想を述べています。実に興味深く要点をついています。

「英文のやうに云ってしまっては、はっきりしますけれどもそれだけ意味が限られて、浅いものになります。・・・」

つまり、日本語は、行間にも余韻を残し、想像力を働かせて読み取るものである、ということを言っているのです。

英語では、書いてあることが全てです。例えば、アメリカの契約書は非常に細かく、その内容も多岐に渡り、分量も多くなっています。すべてのケースを想定して、それらを文字にしているからです。

一方、日本語の契約書は、薄っぺらいもので、しかも、おおよその契約書の最後には、「本契約の取引において問題やトラブルが発生した場合には、甲乙双方が友好的に話し合ってそれらを解決するものとする」とあり甲乙間の関係性をコンテクストにしているのです。

◾️企業内での日本語コミュニケーションでの注意

企業内でのコミュニケーションでは、集団内で蓄積されたメンバー間のコンテクストがあるので、それらを手がかりにコミュニケーションが行われます。ですから、新卒社員や中途社員は「気が利かない」「空気が読めない」と言われてしまうこともあります。

一方、数社が関わるシステム導入プロジェクトにおいては、こうした蓄積されたコンテクストがありません。プロジェクト内であっても異なる会社メンバーとのコミュニケーションには、細心の注意が必要です。お互いに名前もわからず、普段会話すらしていないわけですから、ますます誤解が生じやすい環境にあるからです。

こうした日本語の曖昧さを排除するために、私は、常に、日本語をデジタル化することを勧めています。つまり、漢字熟語で書かれた内容をより詳しい表現に言い換えるのです。

この考えは、日本語を英訳するときに、漢字熟語の翻訳に非常に苦労をした経験が始まりです。たとえば、「整理整頓する」をgoogle翻訳で英訳すると”Organize”になります。しかし、外国人に対して、”Organize”では自分が期待した結果は得られません。

「整理整頓する」をデジタル化するのであれば、日本語を細かく砕いてデジタル化し、わかりやすく以下のように記述します。

「オフィスにある戸棚のファイルを全て取り出して、過去2年間見ていないものは、段ボール箱に入れて書庫に持っていきます。残ったファイルは、すぐに見つけやすいように、時系列に並び変えて、日付のラベルを貼って戸棚に戻してください」

こうして、短く漢字で表現された文字を細かく砕いてバラバラにしてデジタル化することです。

やや「くどい」、「しつこい」、と思われるかもしれませんが、そのくらいでなければ日本語はデジタル化できません。日本語をデジタル化することによって、蓄積されたコンテクストがない相手に対しても、正確に情報を伝達し、曖昧さをなくした表現ができるのです。ぜひ、相手目線に立って、今一度自分のレポートを見直して、漢字熟語を含む曖昧な表現がないか確かめてください。

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