◾️なぜ勉強するか
「教える事は学ぶこと」とはよく言います。人に教えることによって、自分でも発見があるからです。ただ、相手が学びたいと言う気持ちがなければ、かえって無駄な時間になってしまうかもしれません。
そもそも、なぜ勉強しなければいけないのか、なぜ勉強するのか、について考えたことありますか。これは、義務教育の話ではありません。社会人になってから、そして、30代、40代と歳をとっていっても学び続ける必要があるかどうか、勉強する必要があるかどうかという話です。
私は、なんとなく将来に備えて、学ばなければいけない、と漠然と考えていましたが、40代になって、福澤諭吉さんの「学問のすすめ」をわかりやすい現代語で書かれた本を読んで思うところがありました。
この本に書いてある内容は、皆さんもご存知のように、「貧しい、この生活を脱却したい、と思うなら、実学を勉強しなさい」と説いています。実際、福沢諭吉さんは、Bookkeeping(簿記)を日本語に翻訳されました。まさに、実学、世に役立つ学問です。
◾️哲学する心
会社組織に所属していると毎日がさまざまなプレッシャーの中で、しかも、毎日が繰り返しの連続です。そうした中で、何かを勉強しようという気持ちは、正直、なかなか湧いてきません。ただ、私自身にもそうですが、私の仲間にも、いつもこう言っていました。
今の組織の中で、自分の評価や給料に不満はありませんか。もし不満なら、あなたのコネを使いますか?、え、コネもない。ならば、お金はありますか?え、それもない。ならば、あなたには何があるのですか?、そう、自分という存在と時間です。ならば、勉強してください。福澤諭吉先生も『学問のススメ』の中で同じことを言っています。今の自分に不満があるなら勉強しなさい、と。
福澤先生は、『実学』を勉強しなさいと言いました。『実学』とは、すぐに実際に役に立つ学問で、会計、法律、建築といったものです。しかし、そう言われても、漠然としていて、日常の中で皆さんが勉強する題材を見つけるのは簡単ではないでしょう。
私がお勧めするのは、あなたが今取り組んでいる仕事に関連する事柄を勉強してみてくださいということです。なぜなら、今の仕事に直結しているので、成果がすぐに訪れるからです。 そうすることで、勉強するためのモチベーションを維持できます。もっとやろう、他には無いだろうか、といった気持ちが湧いてくるのです。
例えば、今、あなたが、計算した減価償却費ですが、そもそもなぜ減価償却費があるのか、それは、いったいどういう思想なのか、という疑問を持つことです。なぜを問う人になれば、自然と勉強するための好奇心も湧いてきて、しかも、それが即、自分の仕事に役立つのです。
こうして勉強していくうちに、様々なことに興味を持つようになります。まさに、なぜを問う人になるのです。このなぜを問う人とは、吉田兼好『徒然草』に出てくる言葉です。なぜを問い続け、一つの道を究めることで、哲学する心を持つことができるというのです。
経理部で頑張っているあなたなら、先ほどの減価償却費について、「なぜ」と問い続けることで、イタリアで発祥した複式簿記の歴史や、所有と経営が分離しているアメリカの社会に適合する投資家のための会計制度(IFRS)などに到達していくのです。
こうして、目の前のことから始めて、なぜということを追求していくうちに、哲学する心を持ち、自分が抱えていた不満についても解釈できるようになるのです。
◾️人としての権利
「なぜ勉強するか」については、私の好きなもう一つの話があります。 それは、吉田松陰先生の話です。彼は、ご存知のように牢獄に入っても学問を追求していました。
彼の哲学では、学ぶことは人としての権利であり、喜びである、何人もその喜びや権利を奪うことはできない、という考え方です。つまり、学ぶことは人としての喜びであるということです。 知らなかったことを知る、自分が抱いていた疑問が解消される、いろいろな世界を知るにつれて、人として成長し、そして喜びを感じるのです。
ですから、吉田松陰先生に言わせれば、「なぜ皆さん、勉強しないんですか」とおっしゃることででしょう。特に、現在においては、様々な情報が溢れかえっていて、勉強する素材は山のようにあります。もし今の世界に吉田松陰先生が生きていらっしゃったら、毎日が幸せに違いありません。学ぶ材料はいくらでもあるし、毎日、新しい世界を知ることによって、毎日が喜びの日々になったかもしれません。
「教えることは学ぶこと」、そして、学び続けるには「なぜを問う人」になる、そうすることで、「哲学する心」を持ち、人としての「学ぶ喜び」を感じることができるのです。