英語より日本語が大切

 よく映画を見ると、戸田奈津子さんと言う方の名前が出てきます。字幕翻訳されてらっしゃる方です。この方が、昨年引退されました。その記事の中で、強く共感したコメントがありました。

 「通訳や字幕翻訳家を目指す人に伝えたいことはありますか? 」との質問に対し、戸田さんは、「まず映画が好きであること。これが一番根本です。それから日本語を勉強しなさい。通訳とか字幕は英語ができなきゃできないと思ってる人がいるけど、とんでもありません。大事なのは日本語です。本を読みなさい。日本語を知りなさいっていうことです。これが一番の決め所よ。」

 日本語をきちんと勉強しなさい、と言う戸田さんのメッセージです。これは、とことん私も共感します。私も、他人が書いた日本語を翻訳する、と言う仕事も数多くこなしてきました。そして、その中で、いつも困ったと思う事は、日本語がおかしいと言うことです。

  ですから、その日本語を、正しい日本語に修正してから、英語に翻訳しなければならないと言うひと手間がかかります。ひどい時は、どうしても意図がわからず、本人を捕まえて、質問して聞き出すのです。私は、いつも、そうした面倒な作業が嫌で仕方がありませんでした。

  しかし、そうした苦労のおかげで、国語力が飛躍的に伸びた、とも思っています。他人のひどい日本語文章を見ることによって、自分は、そうした文章を書いてはいけないし、英語に翻訳しても、わかるような日本語で書かなければいけない、と意識してしまうからです。

 日本人だから、日本語が上手、と言う事は言えません。実際に、私も、アメリカにいた時に、部下から来たEメールが、何と書いてあるか全然わからなくて、辞書を引いてもわかりませんでした。本人に直接聞いたところ、最近流行のスラングを文章に入れたり、辞書に載っていないような単語をちりばめていたのです。わかるわけがありません。さらに、ビジネスの文章としては、流行のスラングを入れた文章は不適切です。これは本当の話です。

 ですから、私がアメリカにいた当時、キングス・イングリッシュを使ってください、といつもスタッフに言っていました。正しい英語を使って、正しい文法の英語でEメールを書いてください、と、いつもアメリカ人の部下に言っていました。私の部下たちは、ほとんどが大きなカレッジリングを指にはめていて、MBAをとっているマネージャーたちです。彼らですら、正しい英語が書けないのです。

 それでは日本語ではどうでしょうか。そうです。日本人だって正しい日本語を、正しく書けるとは限りません。この、戸田奈津子さんの言葉は、本当に重く、数々の翻訳をされてらっしゃった方ならでのメッセージです。英語を知るには、まず、日本語をよく勉強してほしい、という願いです。 母国語以上に第二外国語は上手にはならないからです。

 そのためには、たくさん本を読んで、正しい日本語が書ける ようにならなければいけないと思います。これは単純な国語教育の問題だけではありません。普段から、正しい言葉遣いをしたり、正しい 日本語で文章を書く、といった習慣をつけていなければいけない、と言うことなのです。

 

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